私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
『向こうに着くまでのあいだに、この身体にたっぷりと君は誰のものか教え込ませて、従順な僕の妻にしてあげる』

浴衣の裾を割って彼に足をねっとりと撫でられ、全身が粟立った。
出そうになった悲鳴は、猿轡によって阻まれた。
ベーデガーに犯されるくらいなら……舌噛んで、死ぬ。

「凛音!
凛音はどこだ!」

不意に外から大きな声が聞こえてきて、ベーデガーの動きが止まった。

「んー!
んー!
んー!」

無駄だと知りながらその声に応えようと、大きな声を出す努力をした。
それをやめさせようとベーデガーが大きな手で口もとを覆ってくる。
それは鼻までも覆い、息ができない。

「ここか!」

遠のく意識の中で、激しくドアを叩く音がする。

「凛音!」

なにかが壊れる、大きな音のあと勢いよくドアが開いた。
その瞬間、驚いた弾みでベーデガーの手が緩む。
必死に息をしようとするが、猿轡に阻まれて苦しいばかりだった。

「凛音!」

入ってきた浴衣の男――炯さんがベーデガーを押し退け、私の猿轡を外してくれた。

「落ち着いて息しろ」

手足の拘束も解きながら、促すように背中を撫でてくれる。
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