私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
それで、呼吸が楽になった。
それを確認し、炯さんが立ち上がる。

『……キサマ。
凛音になにをした?』

「ひっ」

低い、低い声が、そろりと逃げようとしていたベーデガーを捕まえる。

『な、なにって?』

私からは背中しか見えない炯さんからは、激しい怒りのオーラが立ち上っていた。
そのせいか、ベーデガーの余裕が消えている。

『ちょっと早い新婚旅行だよ。

彼女も僕との結婚を承知してくれたし』

『そんなはずねーだろうが。
凛音が愛しているのは俺、……だけだ』

『ひ、ひーっ!』

襟元を掴み、炯さんがベーデガーを強引に立たせる。
宙に浮くほど持ち上げられ、彼はじたばたと暴れていた。

『この、ゲスが!』

『ぐっ!』

床にたたきつけるように落とされてベーデガーは必死に体勢を整え、咳き込みながら呼吸を取り戻している。

『だ、だいたい、ここには兵隊がいたはず……』

「全部のした」

『え?』

状況が整理できないのか、眼鏡の向こうでベーデガーの瞳は完全に点になっている。
私だって炯さんが、なにをさらっと言っているのかわからない。
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