私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
トイレを出たら、炯さんが壁に寄りかかって待っていた。

「えっと……」

もしかしてそんなに切羽詰まっていたんだろうか。
しかし、この家にはトイレが二カ所ある。

「大丈夫か?
どこか痛いとかないか?」

過剰なくらい彼は心配してくるが、昨日の今日ならそうなるか。

「大丈夫ですよ」

手首と足首は痛むが、平気だと笑顔を作る。
これ以上、彼を心配させたくない。

「食欲はあるか」

「そうですね……」

あると答えたいが、まったく食べたいという気が起こらなかった。
炯さんと一緒にこの家に帰ってきて落ち着いたと思っていたが、心のダメージはそう簡単にはいかないらしい。

「……すみません、ないです」

情けなく笑って顔を見ると、みるみる彼の表情が曇っていった。

「凛音が謝る必要ないだろ。
ベッドで待ってろ、なんか飲むもの持ってくる」

「……はい」

僅かな距離なのに炯さんは私をベッドにまで送り届け、寝室を出ていった。

「うーっ」

こんなに炯さんに心配をかけている自分が情けない。
昨日だって、初めてのお祭りではしゃいで私がはぐれたのが、そもそも悪かったんだし。

「凛音」

< 223 / 236 >

この作品をシェア

pagetop