私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
「……ありがとうございます」

甘えるように彼の胸に顔をうずめる。
いいのかな、本当に。
私のために、そんな無理をさせて。

「……その。
昨日ははしゃいではぐれてしまって、すみませんでした」

私がはぐれたりしなければ、あんな危険な目には遭わなかった。
炯さんをこんなに心配させずに済んだ。
後悔してもしきれない。

「どうして凛音が謝るんだ?
悪いのはアイツだろ」

「でも……」

それでも、申し訳ない気持ちが先に立つ。

「それに悪いのは俺だ。
俺が凛音から手を離したりしたから……!」

強い声がして、思わずその顔を見上げていた。
炯さんの顔は深い後悔で染まっていた。

「炯さん……」

そっと脇の下に腕を入れ、広い彼の背中を抱き締め返す。

「炯さんは悪くないですよ。
仕方なかったんです」

あの人混みではぐれるなというほうが無理だ。
私が彼とはぐれたのは仕方なかった。
彼が私を見失ったのも仕方なかった。
ただ、運が悪いことにそれを悪い人間が利用した。
それだけなのだ。

「仕方なかった、か」

「はい、仕方なかったんです」

それで片付けていいのかわからない。
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