私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
「それで。
なにをそんなに、思い詰めてるんだ?
俺でよかったら話を聞いてやるぞ」

真っ直ぐに彼が私を見下ろす。
レンズの奥の目はとても誠実そうに見えた。
それで少し、口が緩んだんだと思う。

「今日、これからお見合い、で」

「なんだ、見合いが嫌なのか」

彼の問いにううんと首を振った。

「別にお見合いに不満なんてありません。
お見合いして、相手の方と結婚するのが私の使命ですし」

この言葉に嘘偽りはない。
裕福な家の娘として生まれ、なに不自由なく育ててもらった。
その代わり、親の命じる相手と結婚しなければならないのは当たり前だ。
それに同じように結婚した両親は、燃えるような恋ではないが信頼を築きあげ、互いに愛しあっている。
私もきっとそうなるのだろうと、漠然と思っていた。
だから今日、初めて会う相手との結婚に不満はない。

「じゃあ、なにが不満なんだ?」

「その。
笑わないで聞いてもらえますか?」

不安で、彼を上目でうかがう。

「ああ」

しかし真面目に彼が頷き、少し安心して口を開いた。

「悪いことをしてみたかったな、って」

じっと彼を見上げ、なにが返ってくるか待つ。
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