私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
ああ、こんな一時の仮初めの恋じゃなく、本当にこの人と恋がしたかったな。
しかしそれは、私には許されないのだ。

「あの。
送ってくださらなくて大丈夫ですので。
ひとりで、帰れます」

もう、十分に迷惑をかけている。
なのにさらに、父に罵倒され、もしかしたら暴力も振るわれるような目には遭わせられない。

「本当に大丈夫か?」

眼鏡の下で、彼の眉間に深い皺が刻まれる。
そこまで私を心配してくれるのが嬉しくて、胸が詰まっていった。

「はい、大丈夫です。
これは私の意思で、私がやったことです。
だから、コマキさんには責任がありません。
お気遣いありがとうございます」

彼を安心させようと、できるだけの顔で微笑む。
それを見て彼は、小さく息を吐き出した。

「わかった。
じゃあ、健闘を祈る」

笑った彼が私に拳を突き出してくる。
どういう意味か一瞬考えて、私も拳を作ってそれに付き合わせた。

コマキさんは玄関まで私を送り、タクシーに乗せてくれた。

「なにからなにまで、本当にすみません」

「いいって。
俺は茜の、ささやかな願いを叶えてやりたかっただけなんだから」

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