私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
慰めるように軽く、彼が私の頭をぽんぽんと叩く。

「とっても楽しい一日でした。
それに……無理なお願いまで聞いてくださって。
本当にありがとうございました」

精一杯の気持ちで彼へ頭を下げた。
顔を上げると眼鏡越しに、コマキさんと目があう。

「だからいいって。
俺は茜を愛しているからな」

悪戯っぽく彼が片目をつぶってみせる。
それで頬が熱くなった。

「それじゃあ……」

「茜」

コマキさんが上半身をタクシーの車内に入れてくる。
そのまま、私の耳もとへと口を寄せた。

「……きっとまた会える」

「え……?」

小さく呟き離れていく顔を、ただ見つめる。

「コマキ、さん……?」

「運転手さん、出してください」

どういう意味か聞こうとしたが、まるで封じるかのようにタクシーの屋根を軽く叩き、彼が促す。
すぐに彼が離れ、ドアが閉まってタクシーは走り出した。

……なん、だったんだろう?
もし、また会えるのなら、こんなに嬉しいことはない。
たとえ私が、どんな立場になっていたとしても。
でも、そんな可能性はきっとゼロだ。

「楽しかった、な……」

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