私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
本当にこの一日、今まで生きてきた中で、最高に楽しかった。
最後に、あんな体験まで。
また籠の中の生活でも、この想い出を胸に生きていける。

そっと、コマキさんと拳をあわせた右手を握り込む。
いくら強がってみせても、父からの叱責はやはり怖かった。
しかしコマキさんのアレで、彼から守られているような気持ちになれた。
これなら怒鳴られようときっと平気だ。

「さようなら」

さようなら、私の自由。
さようなら、初恋の人。
もうこれで、未練なんてない。



――なんて感傷に浸っていた一週間後。
なぜか私はコマキさんと再会していた。
しかも、私のお見合い相手として、ホテルのレストランの個室で。

「はじめまして。灰谷(はいたに)(けい)です」

彼はことさら〝はじめまして〟と強調して爽やかに笑ってみせたが、どこからどう見ても胡散臭い。
そもそもなんで、正体を隠して私を知らないフリをして、コマキなんて名乗っていたんだろう。
もしかしてお見合いの前に、私と一緒で相手の情報を一切入れなかったとか?

「は、はじめまして。城坂(しろさか)凛音(りおん)、……です」

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