私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
彼は笑いすぎて出た涙を、眼鏡を浮かせて拭っているが、私には笑える要素なんてひとつもない。

「改めて。
コマキこと灰谷炯だ。
これからよろしくな」

差し出された右手を少しのあいだ見つめたあと、その手を握り返した。

「東城茜こと城坂凛音、です。
こちらこそよろしくお願いします」

そのタイミングで頼んでいたものが運ばれてきて、慌てて手を引っ込めた。

「というか、知ってて黙ってたんだとしたら、意地悪です」

上目でじろっと、抗議を込めて彼を睨む。

「だから『また会える』って言っただろ?」

「それは、そうですけど……」

炯さんは涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。
アレでわかれと言われても、無理がある。

「凛音、俺が見合い相手だと全然気づいてないみたいだったからな。
だから、正体を隠してた。
すまん」

散々私をからかって気が済んだのか、彼は真摯に私へ頭を下げた。

「いえ……。
なにも知らなかった私も悪かったと思いますし」

せめて相手の顔写真くらい見ておけばよかったのだ。
そうすればこんな事態にならなかった。
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