私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
それは呆れているようでも喜んでいるようでもあった。

「あのさ」

「はい」

次になにを言われるのかわからなくて、どきどきしながら続く言葉を待つ。

「もう俺ら、寝た仲だろ?
いまさらじゃないか」

少しのあいだ言われた意味を吟味し、私は嫁入り前なのに結婚相手とは違う人間――だとあのときは思っていた――とそういう行為におよんでしまったのだと思い至った。

「ソ、ソウデスネ」

あの夜を思い出し、声はぎこちなくなる。
震える手でグラスを掴み、ストローを咥えた。

「まあいいから、俺の家に移ってこい?
それで俺がいっぱい、悪いこと教えてやるからさ」

「……え?」

つい、炯さんの顔をまじまじと見ていた。
悪いことを教えるとはどういう意味なんだろう?
「まさか、楽しい悪いことがあれだけだと思ってるのか?
世の中には一生かかっても遊び尽くせないくらい、楽しい悪いことがあるの。
俺が可能な限り、教えてやる」

私の気持ちがわかっているのか、炯さんが力強く頷く。
結婚すれば今度は良家の奥様という役割を押しつけられ、そのように振る舞うように強制されるものだと思っていた。
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