私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした

「悪いことって、どんな?」

「その。
ゲームセンターとかカラオケとかに行ったりだとか。
ファストフードのお店でハンバーガーを食べたり、露天でクレープを買ったりだとか」

幼稚園からこの春に卒業した大学院まで、常に運転手付きの車で送り迎えだった。
当然、帰りに買い食いとかしたことがない。
それに良家の子女として恥ずかしい行動は禁止されていたので、今時の若い子のするような遊びの経験もなかった。
要するに今まで、籠の中という限られた世界の中で、なに不自由なく生活してきたのだ。
結婚しても、今までの家族の籠から新しい嫁ぎ先の籠へと移動するだけで、結局籠の中なのは変わらない。
それはそれで仕方ないと諦めがついていたが、それでも一度でいいから両親から眉をひそめられるような行為を、外の世界を体験してみたかった。

「あとは、素敵な殿方と恋をしてみたかった、……です」

言い切ったあと、恥ずかしくて頬が熱くなり俯いた。
彼からの返事はない。
こんなことがしたいだなんて、呆れているかバカにしているかなのかと思ったものの。

「それ。
俺が叶えてやろうか」

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