私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
「籍は入れてないだけでもう結婚したも同然ですし、すぐにでも凛音さんとの生活をスタートさせたいのですが」

いかにもよき夫といったふうに、爽やかに炯さんが笑う。
それは私の目から見れば作りものめいていたが、父には効いていた。

「そ、そうだな。
いいだろう」

一瞬あと、父は我に返ったのか小さく咳払いし、仰々しく頷いてみせた。

「ありがとうございます」

「う、うん」

炯さんに微笑みかけられ、父がぽっと頬を赤らめる。
女性どころか高年の男性まで魅了してしまう炯さん、恐るべし。

話が済み、帰る炯さんを玄関まで見送った。

「明日から出張なんだ。
凛音の引っ越しまでには帰ってくる」

「ご無理はなさらないでくださいね」

じっと、私の前に立つ炯さんを見上げる。

「そんな優しい言葉をかけてもらえたら、張り切って仕事が速く終わりそうだ」

彼が膝を折り、顔を近づけてくるのを黙ってみていた。
そのうち、私の唇に彼の唇が軽く触れる。

「……帰ってきたらエッチなことも、たくさん教えてやるな」

耳もとで囁いて、炯さんは離れた。

「えっ、あっ」

熱い吐息のかかった耳を押さえる。
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