私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
私の顔をのぞき込み、にかっと人なつっこく彼が笑う。

「えっと。
カラオケにゲーセンに、ハンバーガーとクレープだっけ?早速行かないと今日中じゃ終わらないな」

「えっ、あの」

もうその気なのか、彼は私の手を引っ張ってきた。

「でも、今からお見合いですし……」

さっきからバッグの中で携帯が震えている。
きっとそろそろ、父に命じられて誰か私を探しに来るだろう。

「見合いをサボるって、これ以上、悪いことはないと思うが?」

右の口端をつり上げて彼がにやりと笑う。
実に悪いその顔を見て、急に世界が切り替わった気がした。

「そう、ですね。
お見合いをサボるとか、悪い子のすることです」

差し出される手に、自分の手をのせる。
どうして今まで私は外の世界に出たいと願うばかりで、その一歩を踏み出さなかったのだろう。
別に本当に、籠に閉じ込められているわけでもないのに。

「じゃあ、行くぞ」

「はい」

ぐいっと彼が手を引っ張り、私は外の世界へと一歩、踏み出した。



男は駐車場に停めてあった車に私を乗せ、追っ手を振り払うように急発進した。
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