私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
でも、世の中には好きな服を好きに着ていい世界があるのだと今の炯さんの言葉で初めて知った。
どんどん、私の世界が広がっていく。
それが、楽しくてたまらない。

「じゃあ、これを着てみたいです。
入ってもいいですか?」

「どうぞ」

おかしそうに小さくくすりと笑い、炯さんは私をエスコートしてくれた。

試着してみた、芥子色のバルーン袖オフショルダーブラウスが気に入って、それにあわせてデニムパンツを選ぶ。
足下とバッグは気に入るのがなくて悩んでいたら、別の店でもかまわないと炯さんは言ってくれたのでそれに甘えた。

「また悪い子のお洋服が増えました!」

初めて自分の好みだけで洋服を買ってもらい、上機嫌で店を出る。
いや、あの日、炯さんに買ってもらった服も自分の好みで選んだが、それでもまだ今日は悪い子だからこういう服を選ばなければならないという義務感があった。
自分の、これが着たい!という欲求だけで選んだ服は、これが初めてだ。

「そうか、よかったな」

眼鏡の下で目尻を下げ、炯さんが私を見る。
それはとても、嬉しそうだった。
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