私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
「とりあえず、自己紹介な。
俺は……コマキフミタカ。
ちんけな会社を経営している」
名乗る前に僅かに、逡巡するような間があったが、もしかして偽名なんだろうか。
だったら。
「東城茜、です。
この春に大学院を卒業したばかりです」
私の名前は東城茜ではない。
これは昨晩読んでいた、小説のヒロインの名前だ。
彼も本当の名前を名乗る気はないみたいだし、私も知られると身に危険がおよぶ可能性がある。
これでも誘拐されそうになった経験は一度や二度ではない。
すべて未遂に終わったけれど。
追跡されないために携帯はホテルの庭に落としてきたが、最終手段の警備会社へ通報が行くブレスレットはバッグに忍ばせてある。
「大学院を卒業したばかりって、じゃあ……二十四?」
「はい」
「年まで妹と一緒とはね」
なにがおかしいのか、彼――コマキさんは笑っている。
しかし、私と同じ年の妹がいるということは、少なくとも二、三歳は上なのだろう。
「まずは服だな。
その格好じゃ悪いことはできない」
ちらりと眼鏡の奥から、彼の視線が私へと向かう。
「……そう、ですね」
つい、自分の身体を見下ろしていた。
俺は……コマキフミタカ。
ちんけな会社を経営している」
名乗る前に僅かに、逡巡するような間があったが、もしかして偽名なんだろうか。
だったら。
「東城茜、です。
この春に大学院を卒業したばかりです」
私の名前は東城茜ではない。
これは昨晩読んでいた、小説のヒロインの名前だ。
彼も本当の名前を名乗る気はないみたいだし、私も知られると身に危険がおよぶ可能性がある。
これでも誘拐されそうになった経験は一度や二度ではない。
すべて未遂に終わったけれど。
追跡されないために携帯はホテルの庭に落としてきたが、最終手段の警備会社へ通報が行くブレスレットはバッグに忍ばせてある。
「大学院を卒業したばかりって、じゃあ……二十四?」
「はい」
「年まで妹と一緒とはね」
なにがおかしいのか、彼――コマキさんは笑っている。
しかし、私と同じ年の妹がいるということは、少なくとも二、三歳は上なのだろう。
「まずは服だな。
その格好じゃ悪いことはできない」
ちらりと眼鏡の奥から、彼の視線が私へと向かう。
「……そう、ですね」
つい、自分の身体を見下ろしていた。