私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
それを聞いて身体がぶるりと震えた。

「……怖い」

世の女性たちは、そんな恐怖と戦っているんだ。
私は誘拐の危険はあったものの、おかげでボディーガードが傍にいることが多く、そういう危険には怯えなくて……というよりも気にすることなく過ごしてきた。
いかに自分が、恵まれた環境なのか痛感した。

「悪いことしに街に出るのはいいが、誘拐以外にもそういう危険があるんだってよく覚えておけ。
まあ、ミドリを付けてるから大丈夫だとは思うけどな」

「はい、気をつけます」

とはいえ、なにをしていいのかわからないけれど。

フラッペを飲み終わり、荷物を持って車に戻る。
もっとも、荷物は全部、炯さんが持ってくれたが。
だって!
私も持つって言っても、ひとりで持てるから大丈夫だって持たせてくれないんだもの!

「マンションってここから遠いんですか?」

「いや?
十分くらいだ」

黒のSUVは滑るように夕暮れの街を進んでいく。
あの日、車で彼の正体がわかったんじゃないかといわれそうだが、ドイツ製のこのクラスの車なら、ちょっと稼いでる会社の社長くらいなら乗っていてもおかしくない。

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