私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
きっと彼にとって、私は妹同然なんだろう。
そこまで考えて、ムッとしている自分に気づいた。
でもこれは、からかわれたからだ。

十分ほど歩いて炯さんが連れてきてくれたのは、ごく普通の居酒屋だった。
いや、じゃあ普通じゃない居酒屋はどんなのだって聞かれても、私にはわからないが。

「まずは飲み物だな」

店員に席へ案内され、ついまわりを見渡してしまう。
そんな私を彼は見守るように笑って見ていた。

「俺はビールにするけど、凛音はどうする?」

「あっ、はい!」

問われて、慌てて視線を目の前の彼に戻す。
とんとん、と軽く彼が指先で叩いたそこには、端末らしきものが置かれていた。

「これは?」

「メニュー兼注文端末」

「へー、そんな便利なものがあるんですね」

昨今は人手不足だというし、その解消でもあるのかな。

「それで。
なににする?」

「そうですね……」

頭を付き合わせるようにして端末をのぞき込む。
そこにはたくさんのお酒が載っていて目移りした。

「というか、酒は飲めるのか?」

「失礼な。
嗜む程度には飲めますよ」

子供扱いされた気がして、軽く頬を膨らませる。

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