私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
「んー、あの日の凛音に興味を持ったから、かな」

困ったように笑い、彼はサラダを口に運んだ。

「仕事が忙しいからな、妻を娶ってもかまう暇がない。
そんなの言い訳だ、結婚さえすればなんとかなるって父さんに言われたけどな。
まあ、父さんの顔を立てるために会うくらいいいかと見合いに行った」

忙しくて家にはほとんどいないと、今日聞いた。
その理由を覆すほどのなにかが、私にあったんだろうか。

「時間があったんで庭を散歩してて、凛音を見つけたんだ。
いかにも池に飛び込みそうな顔をしてるのは心配になったし、いや、でも、この池に飛び込んで死のうなんてバカはいないだろってふたつの考えで、どう声かけるべきかは悩んだけどな」

思い出しているのか、炯さんが小さくくすりと笑う。

「その節はご心配をおかけいたしました」

あのときはとにかく、このまま自由を知らないまま新しい籠へと移る自分が、哀れでしょうがなかったのだ。
それがこんなに、彼を悩ませるなんて思わない。

「いや、いい。
あそこで会えてよかったと、今は思っているからな」

そう……なんだろうか。
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