私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
その手はジョッキを握ったが、空だと気づいたらしくすぐに置き、端末を操作して新しいのを頼んでいた。

「目をキラキラさせてなんでも楽しそうにやっている凛音を見て、今までこんな自由すらなかったのかと可哀想になった。
俺が見合いを断り、別の男と結婚すれば、こんなささやかな自由すらまた奪われるんだろうかと考えたら、いたたまれなかった。
ならせめて、俺が少しでも凛音を自由にしてやりたいと思ったんだ」

新しいビールが届き、喉を潤すように彼はごくりとひとくちそれを飲んだ。
炯さんが私との結婚を決めたのは、同情からだ。
でも、それでもかまわない。

「ありがとうございます、私に自由を与えてくれて」

今、私はこれから始まる新しい生活に期待で胸がいっぱいだ。
それに、最初から愛しあっている人と結婚できるなんて思っていない。
少なくとも私は、炯さんを好きになっていく道を二、三歩はもう進んでいると思う。
彼も同情から愛情へ、少しずつ道を変えていってくれたらいい。

「もしかして迷惑だったんじゃないかと思っていたんだ、そういってくれると嬉しい」

ふわりと笑う炯さんが、とても綺麗だと思った。
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