私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
戸惑いつつ、差し出された小袋を受け取った。

『では、失礼します』

今度こそ、彼の部屋を出る。
ドアを閉めて彼から離れた途端、ため息が出た。

「とりあえず、戻ろう」

とぼとぼと図書館までの道を歩く。
ここに勤め始めて一ヶ月。
なぜか私はベーデガー教授に気に入られていた。
この紙袋の中身が、有名スイーツショップのお菓子だってもう知っている。
それほど何度ももらっているのだ。
しかし私には彼に気に入られる理由が、ドイツ語会話ができるからしか思いつかない。



「お疲れ様でしたー」

定時になり、職場を出る。
残業がほぼないのがここで働く魅力のひとつだ。

「お待たせしました」

「いえ。
凛音様もお疲れ様です」

近くで待っていた迎えの車に乗る。
運転はミドリさんだ。
本当は公共の交通機関で通勤すると言ったのだ。
しかし。

『痴漢が出るかもしれないのに、ミドリをつけていても乗せられるわけないだろ』

……と、炯さんに速攻で却下された。
でも、普通の人はそれで出勤しているんだし、あまりに過保護なのではと思った。
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