未完成な世界で今日も
「もうっ、一花~、私の感想も褒めてよ~」

「はいはい、千幸最高!」

「あ、今の適当じゃん」

二人の笑い声に私もつられて口角を上げる。そして一花がふと眉を下げた。

「あーあ、こんなに楽しい高校があと一週間で終わっちゃうなんて」

「寂しすぎる〜、卒業式の全体で歌う卒業ソング! あれ歌ったら絶対号泣ー」

千幸の泣き真似を見ながら、一花が私の肩をたたいた。

「でもほんと卒業は寂しいけど、アタシ、美波の卒業式のピアノ伴奏楽しみにしてるんだよね」

「あ! 私もー!すっごく楽しみっ」

「あ、うん……」

「音大行ってもしコンサートとかするときは絶対行くからね」

「うんうん、アタシも聴きに行くっ」

「……ありがとう」

担任の藤元(ふじもと)先生しか知らないが、私は四月からの進学先を音大から一般の私立大にギリギリで変更したのだ。私は精一杯の笑みを二人に向けながら、心の中でため息を吐き出した。

予鈴が鳴ると同時に二人が席に戻っていく。そして今日も遅刻ギリギリでやってきた橋本くんが私の隣に座ると共に授業が始まる。

私はそっと自分の左耳に手を当てた。

(……もう一生聞こえないんだな)
< 3 / 3 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

恋雪
遊野煌/著

総文字数/4,501

恋愛(純愛)9ページ

表紙を見る
白い女〜その女は白いワンピースを揺らしてやってくる〜
遊野煌/著

総文字数/8,595

恋愛(その他)1ページ

スターツ出版小説投稿サイト合同企画「1話だけ大賞」ベリーズカフェ会場エントリー中
聖なる夜に贈り物
遊野煌/著

総文字数/4,145

恋愛(純愛)8ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop