性悪毒舌アイドルと甘すぎる日常を。
『ここ山梨だぞ』


「わかってるよ」


谷さんに車出してもらえば数時間で着く。


『落ち着けよ。本当に大丈夫だから』


「信用できない。どうせすぐ退院して撮影するんでしょ。そんなことさせないから」


『お前の気持ちはわかった。ありがたいなとも思ってる。でも、来られると色々と困るから来んな』


…会いたい。


今すぐ顔を見たい。


でも、彼の言う通りそれは迷惑。


「スキャンダルになっちゃうもんね」


『そ』


「…わかったよ」


何もできない。


彼が過労で倒れたのに、私にできることはなにもない。


『電話くれるだけでじゅうぶんありがたいから』


「私にできることって、何もないのかな…」


『なに一丁前なこと言ってんだよ。おめーには100万年早ぇよ』


……そうだよね。


生きてる世界が違うもんね。


「ごめんね、変なこと言って。じゃあ、切るね。お大事に―」


『なぁ』


え…?


一度離したスマホをもう一度耳に当てる。
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