性悪毒舌アイドルと甘すぎる日常を。
ファンデーションを拭うついでに背中をバシバシ叩いてストレスを発散すると、また舌打ちをされてしまった。


「タクシー。乗れ」


「命令しないでよ!」


「うるせぇな。俺だってこんなことやりたくてやってるわけじゃねぇんだから。大人しく従えよ」


ギャアギャア文句を言い合っているうちにタクシーが発進する。


タクシー独特の匂いに包まれた後部座席に、隣には甘ったるい香水の東雲碧。


こ、これは…乗り物酔いするかも…。


タクシー移動はあまり得意じゃない。


この匂いが苦手なんだよね…。


「お前さ、入学式の日に遅刻ってどういうつもり?」


「…しょうがないじゃん……」


5分揺られただけでけっこう気持ち悪くなってきちゃった…。


あと10分くらいだと思うけど…耐えられるかなぁ…。


「…体調不良?」


東雲碧が私の顔を覗き込んでくる。


見た目だけはいっちょ前に美しい顔面が視界の大半を占めている。


「…東雲碧には関係ないから」


この男に弱みをさらけ出すのは気が引ける。
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