余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
真夏が近くなっているようで、歩道を歩いているだけで肌がジリジリとやけてくるようだ。


大樹は萌に日陰を歩かせながら話を聞いた。


「不思議って?」


「今日もそうだったんだけど、大樹とキスをすると体が元気になる気がするの」


嬉しそうに、少しテレたように言う萌に大樹の心臓はドキッと跳ねる。


「好きな相手とのキスだから、それだけで元気になるんじゃないか?」


内心焦りを感じながらも、どうにか悟られないように会話を続ける。


「そうかもしれないね。でも、気持ちだけじゃなくて本当に体がよくなる気がするの。数値だって、ずっと落ち着いてるしさ」


「病は気からって言うし、そういうこともあるかもしれないよな」


「だったらすごいよね。私、大樹のキスで病気が治るかもしれないんだから」


跳ねるように歩く萌は末期がんの患者とは思えないほどだ。


そこには苦しみも悲しみも存在していない。


病気であることが夢みたいだ。


「そんなことより、明日は学校休みだろ。萌はなにするんだ?」
< 145 / 274 >

この作品をシェア

pagetop