余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
倒れる
絵の具の匂いは好きだった。


少し鼻の奥を刺激してくるような匂いと、あとはネットリと絡みついてくるような匂い。


でも、絵の具の匂いもひとつじゃない。


水彩絵の具、アクリル絵の具、油絵の具でそれぞれ匂いが異なっている。


「萌、私達そろそろ帰るよ?」


美術部の窓からはオレンジ色の太陽が差し込んできていて、雨が降る気配は見られない。


「わかった。私はもう少し残ってから帰るね」


雨に降られる心配がなさそうなのを確認して萌は答えた。


今日は顧問の先生が個展の方へ行っていて、生徒しかいない。


見てくれる人がいない部室内は少し換算としていて、今はもう萌しか残っていなかった。


「じゃあ、ここに鍵おいておくからね」


「うん。じゃあまた明日ね」


手を振ってふたりの生徒を見送ると、ついに萌ひとりになってしまった。


シンと静まり返る美術室で萌の筆を振るう音だけが聞こえてくる。


外から入ってくる音も少なくなっていて、他の部活もそろそろ切り上げているところが多そうだ。
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