余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
萌が今描いているのは空想画で、相変わらずファンタジックな内容になっている。


空を飛ぶテレビや、散歩されるキリンなんてどこの世界線で存在しているんだろう。


それでも萌は描き続ける。


キリがいいところまで描かないと気になって夜も眠れなくなるタイプなのだ。


幸いにも今日は調子がいいようでどんどん筆が進む。


下手をすればこのまま学校に止まって一枚絵を仕上げてしまいそうな勢いだ。


実際にそうしてしまいたいという欲求にかられたときだった。


急に左胸に苦しさを覚えて萌は大きく息を吐き出した。


胸を誰かに握りしめられているかのような感覚に、筆を持っていられなくて落としてしまう。


カランッと寂しい音が美術室に響き渡り、続いてガタンッ! と椅子が横倒しになる轟音が響いた。


萌の体が横に倒れ、右胸を抑えた状態で脂汗をかいていた。


誰か、助けて!


叫びたいのに声が出ない。


強烈な痛みに意識が遠のいていく。


急激に死への恐怖が湧き上がり、全身が冷たくなった。


けれどそれもほんの一瞬で次には意識が朦朧として恐怖心が遠ざかっていく。


このままじゃ行けないと思うのに、襲いくる意識喪失に抗うことができなかった。


萌が目を閉じるほんの一瞬前、ガラガラと美術部の戸が開く音を聞いた気がした……
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