余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
☆☆☆

美術室のドアを開けた瞬間描きかけの絵が視界に飛び込んできた。


希はゴクリとツバを飲み込んでその絵を見つめる。


ファンタジックで独特な世界観を表現しているその絵は間違いなく萌の絵だった。


しかし今美術室には誰の姿もないので、萌はきっとトイレにでも立っているのだろう。


片付けもしていないし、まだまだ残って描くつもりでいるのかもしれない。


希は萌と仲が良いといっても描きかけの絵をマジマジと見る機会はすくなかった。


その原因のひとつは、萌の完璧主義にある。


中途半端に描きかけた絵を他の誰かに見られるのが嫌らしい。


それは希にもよく理解できることだった。


素人の絵だと言っても、できるだけ自分で納得した状態まで持っていきたい。


誰かに見られるのはその後のことだった。


もちろん、先輩や顧問に意見を聞く時には見せる必要があるけれど、それ以外のときには自分の力でどこまでやれるか、やってみたかった。


希はどんどん萌の絵に引き寄せられるように近づいていた。


萌の絵はうまい下手ではなくて、人を引き寄せる強さ、大胆さを持っている。
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