余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
スマホ画面を確認しては幸せそうに微笑んでいる。


スマホでやりとりしている相手だ大樹であるということはもう明白だった。


希がふたりを引き合わせたあの日の後から、萌はあんなニヤついた表情を浮かべるようになった。


また大樹の方も似たような状態だった。


近所でバッタリ会ったあときなど、幸せそうな顔をしていることが増えた。


なにかいいことがあったのかと質問しても、大樹は必ずはぐらかしてきた。


そして別れ際になると『そろそろ彼女ができるかもしれない』と、思わせぶりなことを言うのだ。


それを思い出した希の足は急激に重たくなっていた。


急いで職員室へ向かっていたはずなのに、いつの間にか昇降口に立っていて靴を履き替えていた。


私、どうしたんだろう。


萌が倒れてるのに、早く人を呼ばないといけないのに……。


そう思いながらも希は自分が見なかったことにすればいいだけだという気持ちに背中を押されて、そのまま学校を出たのだった。
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