余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
☆☆☆

病院のベッドで横になっている萌の意識は浮いたり沈んだりを繰り返していた。


受け答えができるのは1日のうちの数時間だけになり、あとの時間は意識が混濁した状態になった。


それは病気の悪化に伴い痛みが生じてきたためだった。


痛みを緩和するための薬品は、萌の意識を強制的に現実から引き離していく。


大樹からのキスを拒んだ萌に残された時間は、ごくわずかになっていた。


余命宣告されてから3ヶ月が過ぎ、その生命の灯火は今にも消えてしまおうとしている。


「萌」


愛しいその声に意識が急速に戻っていく。


夢の中を漂っていた萌はうっすらと目を開けた。


「大樹……」


名前を呼んだつもりだったけど、声はかすれて音にならない。

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