余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
☆☆☆

病院のベッドでひとりでいると思い出すことはやっぱり学校生活でのことだった。


萌の毎日は学校と家の中で完結していたから、無理もないことだった。


目を閉じると決まって思い出すのは希と初めて会話したときのことだった。


萌と同じで美術部に入部した希と初めて出会い、そこで隣同士で絵を描くことになった。


最初は互いにぎこちない会話をしていたけれど、共通の趣味があることでどんどん打ち解けていくことができた。


萌の絵を、希は好きだと何度も言ってくれた。


萌も、希の描く真っ直ぐで爽やかな印象を与える絵が好きだった。


希の絵を見ていると、どんな悩みもいずれ解決するはずだと思えるようだった。


そして次に思い出すのは大樹のことだった。


大樹の顔を思い出すと胸の奥がギュッと締め付けられて苦しくなる。


人生で初めて好きになった人。


どういう意味を込めてキスをしてきたのだろう。


暖かな体温と唇の柔らかさを思い出すと体温が急上昇してしまって、なかなか寝付けない。


告白を断った後も大樹から何通かのメッセージがきていたけれど、萌はまだソレを確認していなかった。


確認すればきっと心が揺れる。
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