余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
誰も萌のことを本気で見ようとしない。


噂を鵜呑みにして、それだけで攻撃してくる。


思い出すだけで気分が悪くなって、萌は壁に寄りかかった。


呼吸が乱れて少し脈が早い気がする。


「萌」


そんな声がして振りむくと、そこにはいつもどおり大樹が立っていた。


その笑顔を見た瞬間心がスッと軽くなるのを感じる。


「大樹」


駆け寄ってくる大樹へ向けて微笑んでみせるが、笑顔が引きつってしまう。


「萌、どうした?」


すぐに異変に気がついて心配そうな表情になる大樹。


その目が赤く染まっていることに気がついた。


「大樹こそ、どうしたの?」


まるで泣いていたような顔にとまどう。


大樹は今まで萌の前では笑顔と元気だけを見せてきた。


こんなふうに泣いた後の顔を萌は初めてみたのだ。


「俺? 俺は別になんでもないけど」


とぼけた声で答えるが、それが嘘であることはすぐにわかった。


萌から視線をそらしてさとられないようにしている。


「でも……」


心配になって右手を伸ばす萌。
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