初恋からの卒業


こーちゃんにさらっと嬉しいことを言われて、胸がドキッと甘く跳ねる。


「もっ、もう! そんなこと言ってると、婚約者さんに怒られるよ?」

「いいんだよ。俺、環奈には笑ってて欲しいし。それに環奈は、俺の家族みたいなもんだから」


『環奈は、俺の家族』

突然包丁で刺されたみたいに、胸がズキズキと痛む。

こーちゃんの言葉一つで、いつも私の気持ちはジェットコースターのように急激に上がったり下がったりする。

こーちゃんにとって私は妹のような存在でしかないのだと、改めて思い知らされる。



──カランコロン。


「ごちそうさまでした。また来ます」

こーちゃんはお会計を済ませると、店を出ていく。


こーちゃんが先ほどまで座っていたカウンター席には空になったカップとお皿、そして……。


「うそ。こーちゃん、スマホ忘れてるじゃない」

忘れ物に気づいた私は、慌てて彼のあとを追う。


「こーちゃん!」

完全に陽の落ちた今、街灯の少ない住宅街は薄暗く、時折頬を掠める風は冷たい。


「ねぇ、こーちゃん。待って」

「えっ、環奈!?」


私の声に気づいたこーちゃんが、立ち止まりこちらへと振り返る。


「こーちゃん。店にスマホ忘れてたでしょう」

「あっ、やべ。全然気づかなかった」

こーちゃんは、くしゃくしゃっと頭を搔く。


「はい、どうぞ」

「サンキュ、環奈。あっ、そうだ」

何やら、鞄の中をゴソゴソするこーちゃん。


「環奈。手、出して?」


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