初恋からの卒業


──カランコロン。


学校帰りのセーラー服姿のまま、私は『ホワイト・カフェ』の扉を開く。

すると、コーヒーの香ばしい香りが鼻を掠める。

ああ、この香り。癒される。


「おかえり、環奈」

「ただいま」


私に気づいた父が、カウンターの中から声をかけてくれた。


「環奈。今日は、嬉しいお客さんが来てくれていてね」

「え?」


嬉しいお客さん?

父の言葉に、私がカウンター席に目をやると。


「あ! おかえり、環奈」


カウンターの左端の席には、いつものようにスーツ姿のこーちゃんが。

そして、彼の隣には茶髪の知らない女の人が座っている。


「えっと……?」

「環奈。この人が、俺の婚約者の絵里(えり)

「こん、やくしゃ……」


彼女がこーちゃんの婚約者だと聞き、私の手からはチョコレートの入った紙袋が滑り落ちる。


「あなたが環奈ちゃん? 初めまして。幸太からよくこのお店のことを聞いてて。一度来てみたかったの。お邪魔してます」


私を見て微笑む絵里さんは、思わず息を飲んでしまうほどとても綺麗で。


「ねぇ、幸太。ここのコーヒーすっごく美味しい」

「だろ? ここは、シフォンケーキもめっちゃ美味いんだよ」

「ほんと? 食べてみたい。プレーンとチョコ、どっちにしようかな」

「それじゃあ両方とも頼んで、二人ではんぶんこしようか」


二人の仲睦まじい様子を目の当たりにし、私は胸の辺りが苦しくなる。


「えっと、私……学校に忘れ物しちゃったみたい。こーちゃんと絵里さん、どうぞごゆっくり」


早口でなんとかそう言うと、私は喫茶店を飛び出した。

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