初恋からの卒業
【 皆様に見守られご指導いただきながら
新しい人生のスタートができれば幸いです 】
招待状には挨拶文と、結婚式の日時と場所が記載されている。
これは、何度見たって変わらないのに。なぜか、繰り返し見てしまう。
もしかしたら、自分の見間違いなんじゃないかって。大好きなこーちゃんが結婚するだなんて、すぐには信じたくなかったから。
「……っあ」
無意識に声が出て、招待状を持つ手が震える。
何度読み返しても、書いてあることが変わるはずもなく。
ねぇ、こーちゃん。いつから、付き合っている人がいたの? いつの間に、婚約なんてしたの?
こーちゃんが結婚しちゃったら、私のこーちゃんへのこの想いも完全に絶たなくちゃいけなくなるじゃない。
私の手から力なく滑り落ちた招待状が、昨夜降り続いた雨によってできた水たまりに落ちて濡れた。
* * *
──カランコロン。
お店のドアベルが鳴り、店を出て行ったスーツ姿の男性に私は「ありがとうございました」と明るく声をかける。
私の家は、両親が喫茶店を営んでいる。静かな住宅街の隅にある小さなお店だ。
お店の名前は『ホワイト・カフェ』という。店名の由来はもちろん、我が家の苗字の『白井』から。
『ホワイト・カフェ』 は、昔ながらのレトロな喫茶店だ。五人ほどが座れるカウンター席と、二人掛けのテーブル席と四人掛けのテーブル席がそれぞれ二つずつ。
古い木製のテーブルと椅子、アンティーク調の家具が並び、高い天井からはランプが吊り下がっている。
私の父は、自分の店を持つことが長年の夢だったらしい。
学生時代にはカフェでアルバイトをし、社会人になってからは独学でバリスタについて学び、店を持つために努力を積み重ねたそうだ。
そして父は今から十年前に脱サラし、夢だった自分の喫茶店をオープンさせた。
お店が軌道に乗るまでは閑古鳥が鳴くのもしょっちゅうで、人知れず苦労も沢山あったようだ。
そんな父の努力の甲斐あってか、少しずつお客様が増えていき、今ではコーヒーとふわふわのシフォンケーキが美味しい店だと言われるまでになった。
空が藍色に染まり、お店の前を通る人もまばらになってきた頃。
──カランコロン。
お店のドアベルが鳴るのと同時に、スーツ姿の若い男性が一人店内へと入って来た。
その人を見た瞬間、私は目を見開く。