初恋からの卒業
私は、こーちゃんから顔を逸らす。
こーちゃん本人の口から招待状の話が出て、一瞬時が止まったような気がした。
ああ。結婚するのは本当なのだと、改めて痛感させられる。いっそのこと、冗談だったら良かったのに。
『結婚は嘘でしたー!』って、笑い飛ばしてくれたなら、どれだけ私の心が救われただろう。
「ダチの何人かから結婚式の出欠の返事が届いたけど、環奈からはまだだから。招待状、もしかして届いていないのかと思ってさ」
「結婚式の招待状……うん、届いてたよ」
あれから何日か経ったが、私はこーちゃんの結婚式出欠の返信ハガキを出せずにいた。
「ごめん。返信しなきゃと思ってて、忘れてた」
「ははっ。昔からちょっと抜けてる環奈らしいな」
環奈らしい、か。
「どう? 俺が結婚するって知って、どう思った?」
カウンター越しに、こーちゃんと目が合いドキリとする。
『どう思った?』 って聞かれても。そんなこと、私に聞かないで欲しい。
こーちゃんが結婚するだなんて、嫌に決まってるじゃない。
そんなこと、本人に面と向かって言えないけれど。
「えーっと。こーちゃんに交際してる人がいること自体、私は知らなかったから。正直、すごく驚いたよ」
驚くどころかかなりのショックで。
招待状が届いたあの日の夜は、ほとんど眠れなかった。
「いやぁ。俺、環奈に『そんなんじゃ結婚できないよ』ってよく言われてたからさ。驚いてくれたなら良かった」
こーちゃんは、脱いだ靴下を部屋にそのまま放置していたりと、少しだらしないところがあるから。
『そんなんじゃ結婚できないよ』と、以前私が言ったことがあった。
「それじゃあ、環奈へのサプライズは成功だな」
サプライズ成功……か。そもそもサプライズは、相手を喜ばせるためのものでしょう?
こーちゃんには悪いけど、こういうのはきっとサプライズって言わないよ。
思い返してみれば、こーちゃんはいつもそうだ。大事なことは、何一つ私に話してくれない。いつだって事後報告。
あのときだって、そうだった。