初恋からの卒業


──あれは、一昨年の五月末。

私が、高校二年生のときのこと。


昨日で一学期の中間テストが終わった、清々しい初夏の朝。


「えー。今日から二週間、うちのクラスに教育実習生が来ることになった」

担任の田中先生が朝のホームルームで連れてきたのは、高身長のスーツ姿の男の人。


「紹介する。明桜(めいおう)学院大学から教育実習で来た松浪先生だ。みんなよろしくな」

「えっ」


松浪先生と紹介されたその人を視界に捉えた瞬間、テスト明けでボーッとしていた私の目が一気に覚めた。


うそ……!


「明桜学院大学四年の、松浪幸太です」


なんと、うちのクラスに教育実習生としてやって来たのは幼なじみのこーちゃんだったのだ。


「今日から二週間、よろしくお願いします」

吸い込まれてしまいそうな大きな二重の瞳が細められ、形の良い唇が弧を描く。


「えっ! あの教育実習生、超かっこいいんだけど」

「やばい。めちゃめちゃイケメン」


挨拶した松浪先生ことこーちゃんに、教室のいたるところから女子の黄色い声が上がる。


そんな中で私はただ一人、驚きを隠せないでいた。


えっ。どうしてこーちゃんが?

うちの高校に教育実習で来るだなんて、全く知らなかったんだけど。


「松浪せんせーい」

ホームルームが終わると、さっそくクラスの女子たち何人かがこーちゃんを取り囲む。


こーちゃんのスーツ姿、初めて見たけど似合ってるなぁ。

つい最近まで明るい茶髪だったのが、黒の短髪に変わっていて。爽やかな印象を受ける。


「あのっ! 松浪先生は、どこに住んでるんですか?」

「松浪先生って、どんな女の子がタイプなんですか?」

「ていうか先生って今、彼女いますか?」


矢継ぎ早に、女子生徒からの質問が飛ぶ。


うわ。こーちゃんったら、さっそく生徒から大人気じゃない。

こーちゃんは質問に苦笑いしてるけど、恋人の有無は正直私も気になる。

こーちゃんの返答を、耳をダンボのようにして私が自分の席で待っていると。

< 7 / 32 >

この作品をシェア

pagetop