彼ラン!〜元許婚が逃げ込んできたので、匿うつもりがなぜか同居することになりました〜
大きなマグで甘いキャラメルラテを飲んでる依子さんを見ると、ついニマニマしてしまう。
「何よ」
それを見て、頬を染めて拗ねられると余計に。
「だって、可愛いんですもん」
「コーヒー飲むだけで可愛いって。偏見からくる、ただのギャップよ」
確かに、ギャップ萌えは否定できない。
勝手すぎるイメージで、おしゃれなカップでブラックを飲んでるか、小さくて濃いエスプレッソを飲んでそう。
「そうですよね。そんな依子さんを、私が知らなかっただけです」
私が見てたのは、依子さんのほんの一部分だけ。
それも、もしかしたら完全武装した状態の。
「変な子ね。彼氏を奪われない為ならともかく、せっかくの休みに嫌いな女とお茶してるなんて」
「それを言うなら、依子さんこそ。目障りな子をバーに誘った挙句、ナンパから守るなんて。それに、私はそんなにお人好しじゃありません。嫌いだったらお茶なんてしないし、可愛いなんて思わない」
「あ、あれは……あなたが、ぼけーっと言われるまま変なもの飲んじゃいそうだったからよ。知り合いが大事にしてる子に、滅多な真似させられないもの。というかね、お嬢ちゃんも少しは警戒……」
(え……)
あれって、もしかして。
アルコールが強いだけじゃなかったのかも。
「……ありがとうございます」
「……別に」
ぞっとしたけど、助けてくれたのは嬉しい。
依子さんはやっぱり、そんな人じゃない。
「変な子」
「何回も言わないでください」
そう言わなきゃいけない気がして文句を言ったけど、本当は嫌じゃなかった。
依子さんの目が優しくて、まるでお姉さんに叱られてるみたいで。
「言うわよ。だって、関係ないじゃない。哉人くんに振られた私なんて、後は放っておけばいいのに」
「嫌いなら、本当に酷い人だったらそうしてますよ。でも……っ」
(……ん? )
今、今までで一番、依子さんらしくない台詞が聞こえたような。
「だから、私を嫌いじゃなければ、酷いとも思わないあなたは変わってるってこと」
「……あの男が言ってたことですか? 女王様みたいな雰囲気は、確かにないとは言えませんけど。あんなの僻みだって、私自身のことで分かってます」
依子さんは、どこをどう見てもパーフェクトにしか見えなかった。
今目の前にいる、より自然体に近い彼女を見ても感想は変わらない。
「僻み妬みね。慣れるようにしてきたのは、もちろんあるわ。でも、実際の私は……私なんて、全然羨まれるような存在じゃない。私の方が、よっぽど羨ましい」
(……あ……)
まただ。
続けて聞いて、違和感の正体が分かった。
「……彼女に、他の人を勧められるなんてね」
「なんて」なんて、依子さんは絶対口にしたことがないだろうと思っていた台詞。
(……似ても似つかないって思ってた)
本当のことだ。
私と依子さんは違いすぎる。
でも、確かにそれは、私の口癖と同じだった。