彼ラン!〜元許婚が逃げ込んできたので、匿うつもりがなぜか同居することになりました〜
いつもと雰囲気の違う依子さんの隣には、これまた綺麗な女性がいた。
(……あ)
目があってふわりと微笑まれ、久しぶりに胸が跳ねた。
(……きっと、彼女さんだ……。うわぁ、綺麗……)
「何やってるの。行くわよ」
「え!? ……でも、あの」
「いいから」
お邪魔だ。どう考えても。
なのに、依子さんはまるで最初からその予定だったみたいに、私の腕を引いた。
「もう、まゆりちゃんは……。また変な男に引っ掛かって。あんなの、無視しときなさいよ」
「すみません。でもあの、順番としては寧ろあっちが最初っていいますか……。それより! は、はじめまして!! 」
依子さんと二人でいると、どちらも美しくて目が眩みそうなのに、どこかほっともする。
「まゆりちゃんね。もちろん、噂はかねがね……あはは、可愛い。いや、笑いごとじゃないけど」
「……本当よ。現場は大混乱だったんだから」
「でも、同じこと依子もやったんでしょ」
ぐっと詰まる依子さんも、新鮮で可愛い。
そういえば、今日はいつものできる女スタイルっていうより、ふんわり可愛い雰囲気。
(……きゅん……)
デートだと、そうなるんだ。
ちょっと、可愛すぎるんですけど。
「……何よ」
「そんな可愛いく威嚇したって、今日は効きませんから。依子さん、可愛いんですもん」
「か、可愛……!? 調子乗らないの」
そんな凄まれても、ちっとも怖くない。
少なくとも、今日は。
……明日は分からないけど。
「まあまあ。立ち話も何だし、どっか入らない? 積もる話もあるし……依子、心配してたでしょ。まゆりちゃん
、何か元気なさそうだって」
(……あ……)
絡まれてたからだけじゃなく、元気ないの気がついて声掛けてくれたんだ。
(……女王様って)
すごく、人のこと見えてるんだろうな。
反感を買うこともあるかもしれないけど、それ以上に慕われてる。
依子さんは、そんな女王様だ。
・・・
「へー、哉人くんがね。意外」
「意外……ですかね。優しいし、過保護で……きっと、私がこうだからお兄ちゃん気分が抜けないんだと」
「吐きなさい。さあ」と言われた次には、もう事情を話してしまっていた。
私はずっと、誰かに聞いてほしかったんだ。
「そうじゃなくて。金に物を言わせて女を囲うなんて、そんな最低なことするのがってこと」
「依子」
彼女さんに窘められて、今度は依子さんがふと息を吐いた。
「……そこまで必死になるほど、誰かを好きになるのが意外ってことよ。相手がまゆりちゃんだと、形振り構わなくなるんだ。あの哉人くんが」
「…………」
「“お兄ちゃん気分”じゃないってことじゃない。ね」
言い方は全然違うけど、どちらも優しい。
この私が「まさか、私なんかで」とは言えなくなるほどに。
「あ、そういえばさ。ずっと気になってたんだけど、そのピアス、可愛いね。どこの? 」
「えっ? 」
びっくりしすぎて思わず耳に手をやったけど、そんなの確かめなくても分かる。
「こ、これはその……自分で」
「自分で作ったの!? すごい。ちょっとよく見せて」
「え、えと……近くで見ると粗いですが」
綺麗な顔が近づいてきて、あたふたする。
話題を換える為だとはいえ、そんなふうに言ってもらえて嬉しい。
「えー、売り物みたい」
「あ、それはその……売ってるんですけど……」
「え、そうなの? 欲しい。どこで? 」
「すごいじゃない。何で黙ってたの」
美女二人に詰め寄られて、あわあわ言いながら何とかネットで細々やってることを説明した。
「言う機会がなかったのと、そんなすごいものでは」
「すこいわよ。作るのも難しいし、経営だって大変でしょ」
「そ、そんなたいそうな……」
否定し続けていると、依子さんにジロリと睨まれる。
「……頑張ってます」
謙遜も煩いかな。
謙遜というか、本当にそうなんだけど。
(それも本当……だもんね)
自信はなくても、頑張ってるのは認めてあげたっていい。
「で、どんなのがあるのよ。他のも見せて」
「えっ? えっと……こんなのです。でも、希望があったら、できるだけ近づけて……」
そこから先は、お兄ちゃんの話は一切出なかったけど。
気遣いだと知りつつ、商品を褒めてもらえて少し回復して思う。
――やっぱり、もう一回ちゃんと話そう。