彼ラン!〜元許婚が逃げ込んできたので、匿うつもりがなぜか同居することになりました〜
雑誌を見せられた時はフリーズしたくせに、パタンと閉じられて悲しくなる。
「……好きです。本当に、大好き」
私は「待ってほしい」ってお兄ちゃんに言ったけど、それがお兄ちゃんからだったなら、きっと勝手に傷ついていた。
「なのに、いつも何かを貰うばかりで。子どもじゃないって抗議しながら、哉人さんの前でも子どもっぽくて」
何かをさせてと強請るのだって、大人なお兄ちゃんへのお願いごと。
私は、私のするべきことを自分にしてあげないといけない。
「年下の可愛い子に好かれたくて、大人の男になってるだけよ。……哉人は、子どもの頃の方が大人だったかもね」
そんなこと、しなくてもいいのに。
私にとっては、お兄ちゃんしかいないのに。
『頑張ってほしいんじゃない』
(そんなの、そのまま返しますよ)
私の方が、圧倒的に伸びしろがあるじゃない。
あんな存在自体がレアケースのスパダリよりも、今となっては平凡な私の方が頑張りやすいじゃない。
だから、お兄ちゃんはもっと我儘になってもいい。
「でも、そんな昔の哉人が唯一意固地になって譲らなかったのは、そういえば、まゆりちゃんとの時間だけだったわ」
「……あ……」
学校、習い事、勉強、おうちのこと。
当時、お兄ちゃんはすごく忙しかったはずだ。
もちろん、ずっと一緒なんて無理だったけど、寂しかったって泣いた後は、しばらくずっと側にいてくれた。
『救われたんだよ』
そんなことで。
何もできないどころか、世話をしてもらったばっかりだったのに。
こんな私が息抜きになるほど、お兄ちゃんは生きづらかったのかな。
「それなら、もっと早く迎えに行けばよかったのにね。世話の焼ける」
「それって……」
本当は、無理やり結婚なんてさせる気なかったってこと――……。
「まあ、急がせたのは本当だけど。哉人はいつの間にか大人になっちゃってたから。これくらいはね」
「……私、片をつけてきます」
思わず立ち上がって決意した私に、おばさんはポカンだったけど、こうしてる場合じゃない。
「ずっと、そんなシンデレラストーリーはあり得ないって思ってて……」
私だからこそ、あり得ないと思ってた。
だって、お姫様になるのは、いつだって這い上がってこれるだけのパワーと魅力をもっている人だから。
私とは間逆。その気持ちは消えないけど。
「哉人さんに再会できて、付き合えるなんて夢みたいなことが起きたら、ちょっとでも相応しくなれてからって。頑張らなきゃって思ってました。でも……」
でも、お兄ちゃんのいう「頑張らなくていい」に応えたい。
「これ以上、王子様を待たせてられない」
きょとんとさせてしまったけど、おばさんは「無理しないでね」って笑ってくれた。