だから聖女はいなくなった
 ちらりと、マザー長に視線を向けると、彼女は目を逸らした。

「資金が、足りておりませんので……」

 彼女の言葉で理解した。
 他の人に頼めば報酬が発生する。その報酬を支払えないのだ。

 キンバリーの寄付金は、どこに消えたのだろうか。

 孤児院の視察を終え、サディアスは馬車へと乗り込んだ。王城へと向かう。
 カラカラと車輪の回る音が聞こえてくるが、その音は頭の中を勝手に通過していく。深く沈思に耽る。

 半年ほど前、まだラティアーナが聖女であった頃に訪れた孤児院と、今日の孤児院では状況が大きく異なっていた。

 ラティアーナの存在は、孤児院にとっても大きく影響を与えていた。特に子どもたちへの影響は計り知れない。
 ラティアーナを慕っていた子どもたちは、彼女からたくさんの教えを乞いでいた。そんな彼女の代わりになれるような人物は、ぱっと思い浮かばない。
 本来であればアイニスがその役に望ましい。だが、彼女には無理だろう。ただでさえ、現状に手一杯なのだ。

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