だから聖女はいなくなった
 ラティアーナはどこでも特別な存在なのだ。

 それは、サディアスにとっても――。
 それでもキンバリーの婚約者だからという事実が、その想いに枷をつけた。
 それは今も変わりはない。

 キンバリーがラティアーナを必要としているから、こうやって彼女の足跡をたどっているだけで。

 ぎゅっと、胸がしめつけられた。
 彼女がいなくなる前にこの気持ちをぶつけていたら、現状は変わっていたのだろうか。
 ラティアーナは、自分の隣で微笑んでいたのだろうか。

「……さま、サディアス様」

 侍従に呼ばれ、現実へと引き戻される。
 どうやら、王城へと着いてしまったようだ。

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