だから聖女はいなくなった
 キンバリーは、唇の端をひくつかせた。

「どういうことだ?」
「きちんと帳簿を確認しなければ、確かなことは言えませんが。ただ、食糧は乏しいのです」
「ん? どういう意味だ?」
「ですから、寄付金を横取りしているとか、そういった様子も感じられず。あそこは、ただただ貧しかったのです」
「だが、私は……。寄付金は定期的に送っている、はずだが?」

 それはサディアスも彼の仕事を手伝っているからわかっている。
 キンバリーは孤児院への寄付金を予算化しており、それを定期的に送っている。
 だが、孤児院ではそれを受け取っていない。
 双方での主張が異なっているのだ。となれば、そこの間に何かがある。

「寄付金だって、兄上が直接孤児院へ手渡しているわけではないですよね」
「それは、そうだ。人に命じて、やってもらっている。金額は私が決めているが」
「その者は信用に値する人物ですか?」
「何が言いたい?」
「いえ、とても単純なことですよ。兄上は寄付をしている。だけど、孤児院は寄付を受け取っていない。兄上の帳簿は、僕も確認しているから兄上が嘘をついていないのはわかります。では孤児院は? あれは、嘘をつけるような状態ではなかった」

 そこでサディアスは腕を組んだ。

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