だから聖女はいなくなった
 音を立てて、カップが戻される。

「……だが、そうだったとしたら。チャドは私の寄付金をどうしたのだろうか? 彼が私的に何かに使った?」
「そう考えるのが無難ではあるのですが、シェパード侯爵は特にお金に困っていないのですよ」

 それでも金はないよりはあったほうがいい。

「今回は……私の落ち度だな……」
「不正な金を作るのに、帳簿の改ざんなんてはよくわることですから。そんなに落ち込まないでください」

 とは言ってみたものの、それを見抜けたなかったのだから、こちらの落ち度で間違いはない。

 サディアスは唇を噛みしめる。
 奪われた金は、誰が、どこで、何に使ったのか。もしくは、使っているのか。

 少なくとも、孤児院の子どもたちのために使われていないことだけは確かである。せっかくラティアーナが大事に育てた子供たちの能力が、枯れてしまう。

「ラティアーナは今、どこにいるのだろうか……」

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