だから聖女はいなくなった
 ときに喧嘩もしながら、ラッティとカメロンの二人はすくすくと育つ。
 兄と妹のように育った二人は、成長すると同時に、お互いが家族の存在とは違うものであると気づいた。
 むしろ血の繋がった兄妹でもない。
 好意を寄せあい、互いが互いを想う気持ちを自覚するのも、時間の問題であった。

 ラッティとカメロンがそういった関係になるのをカメロンの両親は喜んだし、ラッティの父親もほのかに笑顔を見せた。
 カメロンの母親はラッティにとっても母親のような存在であり、カメロンの母親からみてもラッティは娘のような存在だった。
 だから、そのうち二人は結婚をして、幸せな家族を築くものだと、村の人たちの誰もがそう思っていた。
 ――あの日、神殿から神官たちがやってくるまでは。

 その日は朝から、どんよりとした鼠色の雲が、空を覆っていた。
 夕方になると、王都からわざわざ神官たちが、こんな辺鄙な村にまでやって来た。
 神官といえば、この国を庇護する竜の代理人とも呼ばれるような人たちである。そんな人たちが、なぜこの村にやってきたのか、さっぱりわからなかった。

 だがその日の夕食の時間、ラッティは父親の様子がおかしいことに気づいた。
 食事をとる手が止まっている。

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