だから聖女はいなくなった
 言葉の節節に棘を感じる。

「えぇ、今回の訪問は非公式ですから」
「なるほど。いや、以前。神殿から神官たちがやってきましてね。そのときは、村全体が大変な騒ぎになったものですから」

 そこでカメロンは苦笑した。神官たちの訪問を快く思っていなかったのが、その様子から感じ取れた。

 サディアスが目の前のカップに手を伸ばす。

「田舎のお茶ですから、サディアス殿下のお口に合うかどうかはわかりませんが」
「いただきます」

 使っている白磁のカップも悪くない。縁には金の刺繍が施され、ゆるやかに湾曲した取っ手は、手に馴染む。

 一口飲んで、カップをテーブルの上に戻す。

「なかなか、癖になりそうな味ですね」
「牛糞で作ったお茶です」

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