だから聖女はいなくなった
 サディアスは「はぁ」とため息をついて、首を横に振った。
 予想はしていたが、これは予想を超える状況でもある。

「兄上。なんなんですか、この状態は。くるべきはずの書類がこないと、財務大臣が嘆いておりましたよ」

 だからサディアスはこの部屋に足を運んだ。ここ数日、財務大臣のぼやきが酷く、とうとう痺れを切らして、状況を確認しにやってきたのだ。

「急ぎの書類があるなら、そこから抜き取って持っていってくれ」

 キンバリーの声は聞こえるのに、彼の姿は見えない。書類が喋っているようにしか見えない。

「そういう問題ではありません。どうしてこんな状態になっているんですか? 今までの兄上は、こんなに仕事を溜め込むような人間ではありませんでしたよね」

 書類の向こう側から、深いため息が聞こえた。
 きっと、机の上に肘をついて両手で頭を抱え込んでいるのだろう。
 その姿が容易に想像できる。

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