だから聖女はいなくなった
 ふと彼女の顔が陰る。

「ですが、竜のうろこは私たちの穢れを集める役目があるため、きちんと磨かなければ、竜は穢れまみれになってしまうのです」

 手が寂しいのか、彼女はいつの間にか前と同じように花冠を作っていた。足元には花冠が作れるような花が咲いているし、彼女が座った脇にはたくさんの花が摘んであった。

「竜が穢れにまみれると、どうなるのですか?」

 神殿は竜について詳しく教えてくれない。聖女の役目についても、もっと深いところまで知りたいのに、どうしても越えられない壁があるようで、それ以上の情報を聞き出すのははばかれるような、そんな感じがしていた。
 だが、彼女であれば、それをすんなりと教えてくれるだろうという根拠のない自信がある。

「竜が穢れにまみれると、厄災が訪れると言われています。実際、二十年ほど前には、厄災が訪れたと言われておりますよね。大寒波が襲い、寒さと飢えで多くの方がその命を失いました」
「あぁ、そうですね。ネーニャの大寒波と呼ばれていますね」

 ネーニャの大寒波――。
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