だから聖女はいなくなった
《腹が減った》

 そう言って竜が食べるのは、人々の穢れである。人を憎み、恨み、妬む気持ちが竜の糧となる。
 穢れを食べた竜は、うろこが汚れる。それをせっせと磨くのが聖女の役目。
 その仕事をさぼると、竜は穢れにまみれ異臭を放ち始める。
 異臭がし始めると、神殿で暮らす者たちに迷惑をかけるだろうからと、聖女はそうならないようにうろこを磨く。

 竜のうろこが汚れるのは、竜が人々の穢れを引き受けているから。その結果、この国は人々が穏やかに過ごせているのだろう。
 聖女となったミレイナは、そう思っていた。
 だから、竜のうろこをせっせと磨く。
 人々が末永く、安穏たる生活を送れるようにと。

 そんな彼女が、ユリウスと出会ったのはその頃だった。

 ユリウスは王国騎士団に所属する騎士で、主に王城の警備を担当していた。

 ミレイナも聖女として王城を訪れることはちょくちょくあった。
 王妃主催のお茶会。そういった名目で訪れることが多かった。

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