だから聖女はいなくなった
 でもその日は、お茶会の雲行きが怪しかった。
 いつも目立たぬようにと質素なドレスで参加しているミレイナだが、ミレイナがどこかの女性の婚約者を誘惑したとか、そんな話の流れになったのだ。

 ミレイナにとっては寝耳に水の話である。
 そもそも、この場に参加している女性の名前すらよくわからない。どこかの貴族の令嬢らしいのだが、その家名ですら覚えられない。
 彼女が顔と名前が一致している女性は、王妃くらいである。さすがにここだけは覚えた。

 本当は来たくもない茶会なのに、神殿からは王族とのつながりは重要だからと、背中を押されて渋々と参加しているだけにすぎない。
 それなのに、身に覚えのないことで言いがかりをつけられている。
 そして、こういうときにかぎって、主催者である王妃は席を外している。
 いや、彼女がいないからこそ、こういった話題があがったのだ。

 妬み――。

 竜が好きそうな穢れである。

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