だから聖女はいなくなった
 聖女の近くには、必ず巫女がいた。それは、例のお茶会での事件を受け、お目付け役に神殿側が寄越したのだ。第三者の目が光れば、ミレイナに嫌がらせもできないだろうというのが神殿の考えだ。単純であるが、効果はあるだろう。

 だから、ミレイナはなかなか一人になれなかった。それでも彼女は王城の敷地内は安全だから一人にしてほしいと口にする。

 共に神殿で暮らしている巫女だから、聖女の仕事の大変さを理解しているのだろう。特に、竜の世話。大きくて異臭を放つ生き物。うろこを磨く作業は、体力と気力を使う。

 巫女もミレイナに同情したのだろう。

 ほんの少しだけ、一人になれるのを許された。

 そのわずかな時間を使って、ミレイナはユリウスと会った。
 言葉を交わす時間も限られている。となれば、伝えられないことは手紙に託す。
 幾言か他愛のない話をするだけ。

 そんなささやかな時間がミレイナの楽しみな時間でもあった。

 ミレイナは歴代の聖女の中でも、月白の首飾りとの相性がよかったのかもしれない。
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